ムルギーのカレー
渋谷 百軒店

昭和43年のある日
午前の講義が終わって、さあ昼飯はどうしよう
先日先輩が言っていたムルギーへ行ってみよう



大正ロマンを感じる門構え、中はちょっと薄暗いが換気扇から柔らかな日が差し込む。席は高めの衝立で仕切られている



先客が既に3人、黙々と食べている
スタッフはどうやら老夫婦だけのようだ

席についた私に気がついておばあちゃんコップの水を持ってこっちに向かおうとしている  しかしユックリだ
最初の右足から次の左足がなかなか出ない  どうしたんだろう 
膝関節痛だろうか  ユックリだ  スローモーション観てるようだ
出た  左足が出た  そして右だ  一歩が5cmだ
しっかりこっちを見ている  こっちに向かおうとしている
でた! ひひひ左足がでた! さあ次は右足だ
でででで出ない  ユックリだ
まだ3.5mある
ここから注文しても聞こえるがどうしよう
私はもう「卵入り」に決めているのだ
待とう、ここまで来るまで待とう あと2.8m
コップの水がゆれている ユックリなのにゆれている
大丈夫かおばあちゃん
あと2.3m  来るぞ  来るぞ  5cmづつ来るぞ
早よう来てくれ
おばあちゃん  大丈夫か  手を貸そうか
来た  来た
ユックリとコップに手を掛けた
ユックリだ  席まであと50cm
ユックリだ  あと35cm
あと25cm
あと5cm

今 置いたあ〜〜〜



「卵入りですか?」
ど、どうしてわかるんだ。

注文してから10分くらい経っただろうか。
トレーをもってこちらに向かって来る。
ゆっくりだ。
と、その時一人のお客さんが席を立って、
「お勘定!」
まさか・・・。
お婆ちゃんUターンしてレジへ。
俺のカレーは・・・。

やっと届いたカレーがこれ。



オオオオォ〜〜  これだあ〜〜



見よ! このエベレスト
ススススプーンが無い
おばあちゃん  ナプキンにつつまれたスプーンを置こうとしている
ユックリだ
置いたあ〜〜

そして「ごゆっくりどうぞ」


午後の講義まで時間が無くなった。





辛口別料金は聞いたことあるが
甘口別料金は初めてだ

いやあ  旨かった
又来よう  もっと時間のある時に
おじいちゃん  おばあちゃん  長生きしてよ!



3年前に40数年振りに行ってみた。
二人の娘さんがしっかりと後を継いでやっており、味も変わっていなかった。
ホッとした。
昨今黒部のダムカレーがご当地グルメとして人気を呼んでいるようだが、その原点がここにある。


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